『コンフィデンスマンJP』を原作とした韓国ドラマ『コンフィデンスマンKR』は、単なるリメイクではありません。脚本家ホン・スンヒョンの手によって、韓国社会ならではの要素やキャラクター描写が加えられ、全く新しい物語として生まれ変わっています。
本記事では、脚本家ホン・スンヒョンの過去作や作風を掘り下げながら、『コンフィデンスマンKR』におけるオリジナル性と、日韓ドラマの脚本構造の違いを比較し、その魅力を解説していきます。
- 脚本家ホン・スンヒョンの代表作と作風の特徴
- 『コンフィデンスマンKR』における韓国オリジナル要素の解説
- 日本版との違いやグローバル展開を意識した脚本構成の魅力
1. ホン・スンヒョン脚本家のプロフィールと代表作
『クリミナル・マインド: KOREA』や『チョヨン〜幽霊が見える刑事〜』を手がけた実力派
『コンフィデンスマンKR』の脚本を手がけるホン・スンヒョン(Hong Seung Hyun)は、韓国国内のドラマファンから高い評価を受ける脚本家の一人です。
これまでに『チョヨン〜幽霊が見える刑事〜』(2014)、『クリミナル・マインド: KOREA』(2017)、『風と雲と雨』(2020)など、ジャンルを問わずさまざまな作品を担当してきました。
サスペンス、ファンタジー、歴史ドラマと多岐にわたる作品に携わっていることからも、彼の脚本家としての柔軟性と幅広い実力がうかがえます。
スピード感とヒューマンドラマを両立させる作風
ホン・スンヒョンの脚本の特徴は、緊迫感のある展開と人間関係の描写を高いバランスで成立させる構成力にあります。
例えば『クリミナル・マインド: KOREA』では、アメリカの大ヒット犯罪捜査ドラマを韓国社会に即した形で脚色し、単なる模倣に終わらない“韓国型プロファイリングドラマ”を確立しました。
また、人物の心理に深く切り込みながら、視聴者が感情移入しやすいセリフや人間関係の構築にも定評があります。
今回の『コンフィデンスマンKR』でも、原作のエンタメ性を残しながら、よりリアリティを重視した“韓国社会の縮図”のような演出が加えられています。
脚本家自身の作風と、原作の枠組みを絶妙に融合させる手腕が、本作を“ただのリメイク”に終わらせていない大きな要因です。
2. なぜ『KR』は単なるリメイクに留まらないのか?
韓国型ケイパー物に“パッチ”を施した脚本構成
『コンフィデンスマンKR』は、日本の『コンフィデンスマンJP』を原作としながらも、単なる翻訳リメイクではなく、韓国独自の社会事情とドラマ手法を反映させた再構成がなされています。
演出を務めたナム・ギフン監督は、インタビューで「本作は原作に“韓国的パッチ”を加えた作品」だと明言しており、韓国ならではのドラマ文法や人物設定が随所にちりばめられていることがわかります。
日本版よりも“ケイパーもの”としての緊張感が強く、詐欺師が主人公であることに対するリアルな倫理観の描写が際立っています。
「なぜ詐欺をするのか?」という人物の動機に焦点
『コンフィデンスマンJP』では、詐欺の仕掛けやトリックがストーリーの中心にあるのに対し、『KR』では詐欺を行う“動機”や“心情の変化”に焦点が当てられています。
主人公ユン・イランをはじめとする主要キャラクターたちは、ただ面白い手口を披露するのではなく、「なぜその相手を騙すのか?」「なぜその方法を選ぶのか?」という感情的・倫理的背景が丁寧に描かれます。
その結果、視聴者はキャラクターにより深く共感し、詐欺という行為そのものに対しても多面的な視点を持つことができます。
また、詐欺師同士の葛藤や裏切りもストーリーに組み込まれており、人間関係の緊張感が物語全体に厚みを持たせています。
これらの要素が加わることで、『コンフィデンスマンKR』はリメイクを超えた“韓国オリジナル作品”として高い評価を得ているのです。
3. 韓国オリジナル要素として強調される社会性
各話に“現代社会の問題”を詰め込んだ構成
『コンフィデンスマンKR』では、1話ごとに異なるターゲットを設定しながら、韓国の現代社会が抱えるリアルな問題を物語の軸に据えています。
たとえば、宗教詐欺、相続争い、医療費詐欺、SNSブランディングによる虚構ビジネスなど、視聴者にとって身近でかつセンシティブなテーマが次々と登場します。
この構成により、単なる娯楽作品としてだけでなく、社会への問題提起を含んだ“社会派エンタメ”として高く評価されています。
復讐・社会正義・人間の欲望というテーマの注入
本作では、詐欺の目的が単なる金銭的利益ではなく、社会的制裁や復讐といった倫理的背景に基づいている点が特徴です。
たとえば、過去に被害を受けた人々のために詐欺を仕掛けるという展開が多く見られ、視聴者の共感を誘う構成になっています。
このように、悪を罰する“ヒーローとしての詐欺師像”を描くことで、韓国ドラマらしい感情の振れ幅と社会的メッセージを同時に実現しています。
さらに、詐欺師自身も過去の傷や社会の矛盾に苦しんできた背景が描かれており、“騙す者と騙される者”の構図に一筋縄ではいかない奥深さを与えています。
この点が、視聴者に問いを投げかける作品としての価値を高めているのです。
4. 日本版との脚本構造の違い
原作のエンタメ性 vs 韓国版の緻密な構造とメッセージ性
日本版『コンフィデンスマンJP』は、痛快でスピーディーなエンタメ性が魅力の作品です。
一方で、『コンフィデンスマンKR』はその魅力を引き継ぎつつも、各話の構成や台詞回しにおいて、より“緻密な構造”と“深いメッセージ性”を追求しています。
たとえば日本版が「テンポと騙しの爽快感」に重きを置くのに対し、韓国版は「詐欺の背景」「加害者と被害者の構図」までを丁寧に描写しているのが大きな違いです。
キャラクターの心理描写と多層構造の違い
『JP』では、ダー子・ボクちゃん・リチャードといったキャラクターが、一定のテンプレートに基づきユーモアを交えて物語を展開していきます。
対して『KR』では、ユン・イランやチョン・ウナといった登場人物たちの“心理的背景”が物語の軸に据えられており、回を追うごとにキャラクターの深層が明らかになります。
彼らの“過去”と“現在”が交差するように描かれるストーリーテリングは、韓国ドラマならではの多層構造の脚本技術を象徴しています。
さらに、日本版が「スカッと騙して終わり」であるのに対し、韓国版では騙した後の“余韻”や“その後の人間関係の変化”までも描写されており、ストーリーの“重さ”と“後味”が異なります。
これらの違いが、リメイクを単なる模倣ではなく“再創造”に引き上げている要因なのです。
5. 監督視点から見るホン・スンヒョン脚本の魅力
ナム・ギフン氏が語る韓国的なキャラクター描写の深み
『コンフィデンスマンKR』の演出を手がけたナム・ギフン監督は、本作において「韓国型ケイパードラマ」を目指したと明言しています。
その中で特に強調されているのが、脚本家ホン・スンヒョンのキャラクター設計の深さです。
ナム監督はインタビューで、「詐欺というテーマを扱いながら、一人ひとりのキャラクターの“内面の痛み”や“正義感”を描くことで、物語に重みが出た」と語っています。
特に主人公ユン・イランの過去に焦点を当てた展開では、“騙す側”の倫理観や葛藤を通して、視聴者に深い共感を呼び起こす演出がなされており、それを支えているのが脚本の力であることを監督自身が強調しています。
社会的なテーマとパズル的構成にこだわった脚本設計
ナム・ギフン監督はまた、脚本について「社会問題を一つ一つのエピソードにパズルのように配置している」と語っており、そこに韓国ドラマならではの奥行きが生まれていると指摘しています。
ホン・スンヒョン脚本は、全12話を通して登場人物の過去と現在を少しずつ浮き彫りにする構造になっており、視聴者が回を追うごとに「なぜこの人物がこの詐欺を仕掛けるのか?」という本質に迫る仕掛けとなっています。
これはケイパードラマでありながら、心理サスペンスやヒューマンドラマとしても機能する、非常に珍しい脚本構成です。
ナム監督は、「脚本と演出が一体となってこそ、キャラクターが“生きた存在”として動き出す」とも語っており、ホン・スンヒョンの脚本がその理想を実現する原動力になったと評価しています。
6. グローバル配信を意識した構成と脚本の工夫
Amazonオリジナルとして240以上の国と地域で同時配信
『コンフィデンスマンKR』は、Amazon Originalシリーズとして制作され、全世界240以上の国と地域で同時配信されました。
これは単なる韓国国内向けドラマとは異なり、国際的な視聴者を想定した脚本・演出が求められるプロジェクトであることを意味しています。
そのため脚本には、文化的背景の違いを超えて共感できるテーマやキャラクター設定が意識的に盛り込まれています。
韓国的でありながら国際的に通用する脚本設計
ホン・スンヒョンはこの点を踏まえ、韓国の社会問題や文化的文脈をしっかりと描きつつも、それが“ローカルすぎない”ようバランスを取る構成を意識しています。
たとえば、宗教詐欺やSNSによる自己ブランディングといったエピソードは、どの国の視聴者にとってもリアリティを持って受け止められる普遍的なテーマです。
その一方で、登場人物の感情の揺れや、家族・復讐・正義といった韓国ドラマ特有の人間ドラマの濃さはしっかりと生かされています。
結果として『コンフィデンスマンKR』は、“韓国らしさ”を保ちつつも、グローバル市場で高い評価を得ることに成功しています。
脚本家ホン・スンヒョンの手腕によって、文化的な壁を越えた共感と物語性が見事に融合している点は、まさにこの作品の大きな魅力の一つです。
7. ホン・スンヒョン脚本の見どころとまとめ
リアルな心理描写が引き出すキャラクターの魅力
ホン・スンヒョンの脚本で最も際立っているのは、登場人物たちのリアルな感情の揺れや葛藤を丁寧に描いている点です。
詐欺という非日常的な題材を扱いながらも、視聴者が感情移入できるキャラクター構築が徹底されています。
とくに主人公ユン・イランをはじめとする詐欺師たちが、「何を背負って詐欺に手を染めているのか」という背景が語られることで、物語に深みと信憑性が加わります。
エンタメ性と社会性の融合が示す脚本の完成度
『コンフィデンスマンKR』は、1話ごとの爽快感やトリックの面白さといったエンタメ性をしっかり保ちながら、社会問題への批判や問いかけも内包しています。
それはすべて、ホン・スンヒョンの脚本設計に根ざしており、視聴者に楽しさと考えるきっかけの両方を提供するという、非常に高度なバランス感覚が光ります。
脚本の巧みな構成によって、ただ“騙す”ことではなく、“騙す理由”や“その結果”までを描ききる物語が成立しています。
日本版と比較しても、『KR』ならではの情緒やメッセージが鮮明であり、韓国ドラマファンだけでなく、社会派ドラマを好む層にも響く作品となっています。
ホン・スンヒョンの脚本は、単なる翻案を超えて、“再解釈”されたコンフィデンスマンとして、新たな価値を提供していると言えるでしょう。
- ホン・スンヒョンは多ジャンルを手がける実力派脚本家
- 詐欺の“動機”や“人間ドラマ”に重点を置いた構成
- 韓国社会を反映したリアルな問題提起が特徴
- 日本版とは異なる心理描写と多層構造が魅力
- ナム・ギフン監督との連携で脚本の深みが倍増
- グローバル配信を意識した普遍性とローカル性の両立
- 脚本と演出が融合し、“再解釈版”として成功
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